平成22年10月15日損害賠償請求事件

最二判平成22年10月15日


交通事故による怪我で後遺障害が残った上告人が、加害車両の運転者と加害車両の運行供用者に対して、自動車損害賠償保障法3条に基づき損害賠償を求めた事案です。


労災保険法に基づく休業給付及び障害一時金(休業給付等)について、どの部分に、どういう順序で損益相殺的調整をするか


上告人(被害者側)は、「本件休業給付等との間で行う損益相殺的な調整につき、これらが損害金の元本及びこれに対する遅延損害金の全部を消滅させるのに足りないときは、これらをまず各てん補の日までに生じている遅延損害金に充当し、次いで元本に充当すべき」
と主張しました。


最高裁は、平成23年9月13日の判決(裁判所時報1515号6頁)と同じく、
「被害者が不法行為によって損害を被ると同時に、同一の原因によって利益を受ける場合には、損害と利益との間に同質性がある限り、公平の見地から、その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要がある」


と述べ、


「被害者が、不法行為によって傷害を受け、その後に後遺障害が残った場合において、労災保険法に基づく各種保険給付を受けたときは、これらの社会保険給付は、それぞれの制度の趣旨目的に従い、特定の損害について必要額をてん補するために支給されるものであるから、同給付については、てん補の対象となる特定の損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。」


と平成22年9月13日判決を引用し、
照)。


「本件休業給付等については、これによるてん補の対象となる損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する関係にある休業損害及び後遺障害による逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであり、これらに対する遅延損害金が発生しているとしてそれとの間で上記の調整を行うことは相当でない。」


とし、


「本件休業給付等は、その制度の予定するところに従って、てん補の対象となる損害が現実化する都度、これに対応して支給されたものということができるから、そのてん補の対象となる損害は本件事故の日にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をするのが相当である。」


平成22年9月13日判決の際、最二判平成16年12月20日裁判集民事215号987頁との関係がよくわからないと書いたところ、裁判官千葉勝美の補足意見がそれについて触れておられました。
「平成16年第二小法廷判決は、被害者が不法行為の当日に死亡した事案において、被害者の逸失利益労災保険法に基づく遺族補償年金及び厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金との損益相殺的な調整につき、上記各年金給付(以下、両者を併せて「遺族年金給付」という。)が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは、遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであると判断している。」


そうなんです平成16年は、まず遅延損害金に充当すべきとしてるんです。


「本件は、被害者が不法行為により傷害を受け、その後に後遺障害が残った事案であり、この点で平成16年第二小法廷判決とは前提となる事実関係に違いがある。」


事案が違うと言うことですか・・・


「平成16年第二小法廷判決の事案において被害者に生じた損害との間で損益相殺的な調整をすべきものとされた遺族年金給付は、被害者の死亡の当時その者が直接扶養する者のその後における適当な生活の維持を図ることを目的として給付されるものであり」「、被害者の逸失利益そのもののてん補を目的とするのではなく、それに生活保障的な政策目的が加味されたものとなっており、損益相殺的な調整の可否についての前提が本件と異なっているとみる余地がある。」


余地?


「すなわち、本件休業給付等は、労働することができなかったために受けることができない賃金のてん補や、労働能力が喪失ないし制限されることによる逸失利益のてん補を目的とするものであるが、遺族年金給付は、そこまでの費目拘束があるとはいえない。」


費目拘束の程度の違いですか?そんなに違うのかなあ。もう少し理由が知りたい。


「もっとも、遺族年金給付によるてん補の対象となる損害は、被害者が被った損害すべてではなく、基本的には給与収入等を含めた逸失利益全般であるというべきであるから、損益相殺的な調整の対象となる損害も遺族年金給付の趣旨目的に照らし、これと同性質で、かつ、相互補完性を有する損害の範囲に限られるものというべきであり、その点では、本件の場合と同じ考え方を採る余地があるのではなかろうか。」


そんな気がします。


「すなわち、上記の調整の対象となる損害に被害者の逸失利益に係る元本のほか遅延損害金をも含むとする平成16年第二小法廷判決の判断を改め、被害者が不法行為により長期の療養を経ることなく死亡した場合にあっても、労災保険法に基づく保険給付や公的年金制度に基づく年金給付については、それぞれの制度の趣旨目的に照らし、逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整をすべきであり、また、上記の各給付が制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、これらが支給され、又は支給されることが確定することにより、そのてん補の対象となる損害が不法行為の時にてん補されたものと法的に評価するのが相当であるとも考えられる。」


こう考える方が整合性があるような気がするのですが・・・。


「これらの点については,今後,更なる検討を要するといえよう。」


結局、まだよくわからない。