平成22年10月22日損害賠償請求事件

最二判平成22年10月22日



上告人が、A社のC種類株主全員(2名)の同意を得て、C種類株式全部を公開買い付けによらずに買い付けたところ、A社の普通株主である被上告人が、

上告人は、C種類株式を買い付けるときに普通株式と共に公開買付によらなければならなかったのに、違法に公開買付によらなかったことにより、被上告人保有普通株式を売却する機会を逸し、損害を被ったなどと主張して、

不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。


当時の証券取引法は、
有価証券報告書を提出しなければならない発行者の株券を、当該発行者以外の者が、取引所有価証券市場外で買付等を行う場合に公開買付によることを原則と定め、その例外の一つとして、「政令で定める株券等の買付け等」については、公開買付による必要はないと定めていました。

その政令においては、
1 株券等の所有者が少数である場合として内閣府令で定める場合であって、
2 当該株券等にかかる特定買付け等を公開買付けによらないで行うことに付、当該株券等の全ての所有者が同意している場合として内閣府令で定める場合における当該特定買付け等
と規定されており、

その内閣府令においては、
1の場合を、株券等の所有者が25名未満である場合
2の場合を、当該株券等にかかる特定買付け等を公開買付けによらないで行うことに同意する旨を記載した書面が当該株券等の全ての所有者から提出された場合
と規定されています。


当該政令内閣府令に書いてある「株券等」に、買付けの対象とされた種類株式にかかる株券等(例えばC種類株式にかかる株券)のみならず、買付け対象外も含めた全ての株券等(例えば本券における普通株式にかかる株券)も含むのかが問題とされました。


原審は、全ての株券等が含むとし、全ての株券等の所有者は25名以上いるので、当該政令内閣府令の要件を充たさないので、公開買付けによらないでできる場合にはあたらない。
それなのに、本件買付けを公開買付けによらないで行ったことは違法であって、不法行為にあたるとしました。


これに対して、最高裁は、
当該政令及び内閣府令が改正により、上記の公開買付けによらない新たな例外を設けた目的が、事業再編等の迅速化及び手続の簡素化を図る目的だったこと
事業再編等のためには、その再編等のために発行された特定の種類の株券等のみを特定買付け等をすることが必要な場合があること
その際、上場会社の発行する株券等の所有者は多数に及ぶこと
特定買付け等を行う者において買付けの対象としない他の種類の株券等があるとしても、その所有者の利害に重大な影響を及ぼすものではないこと


このような実情や改正目的などを考慮して、結論として
「株券等」には、特定買付け等の対象とならない株券等は含まれない。
として、不法行為を否定しました。




証券取引法、同法施行令(政令)、内閣府令などは、基本的に金融商品取引法等に引き継がれており、須藤正彦裁判官が補足意見で述べられています。
<現行関連法令>
金融商品取引法27条1項但書
施行令6条の2第1項7号
発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令第2条の5
内容
1 当該株券等の所有者が二十五名未満である場合
2−1 特定買付け等の後における当該特定買付け等を行う者の所有に係る株券等の株券等所有割合とその者の特別関係者の株券等所有割合を合計した割合が三分の二以上となる場合であって、当該特定買付け等の対象とならない株券等があるとき 
 当該特定買付け等の対象となる株券等に係る特定買付け等を公開買付けによらないで行うことに同意する旨を記載した書面が当該特定買付け等の対象となる株券等のすべての所有者から提出され、かつ、買付け等対象外株券等についてイ又はロの条件が満たされている場合
イ 特定買付け等を公開買付けによらないで行うことに同意することにつき、当該買付け等対象外株券等に係る種類株主総会の決議が行われていること。
ロ 買付け等対象外株券等の所有者が二十五名未満である場合であって、特定買付け等を公開買付けによらないで行うことにつき、当該買付け等対象外株券等のすべての所有者が同意し、その旨を記載した書面を提出していること。
2−2 前号に掲げる場合以外の場合 当該特定買付け等の対象となる株券等に係る特定買付け等を公開買付けによらないで行うことに同意する旨を記載した書面が当該特定買付け等の対象となる株券等のすべての所有者から提出された場合
3 3項以降は、電磁的方法による場合の規定