平成22年10月19日詐害行為取消等請求事件

最三判平成22年10月19日


<事案>
Aが、債務超過であるにもかかわらず、上告人に不動産持分を売却したところ、Aの債権者である被上告人が、詐害行為取消権に基づいて、上告人に対して、当該売買契約の取消と上告人への当該持分の移転登記の抹消登記手続を求めが事案です。


<本訴の流れ>
被上告人は、Aに対して二つの債権を持っていました。
一つは、C(株)に対する債権の連帯保証債権(甲債権)、もう一つは(有)Dに対する債権の連帯保証債権(乙債権)です。


被上告人は、当初、甲債権を被保全債権として、詐害行為取消権を行使していたのですが、別訴で和解が成立し、甲債権が消滅してしまいました。


そこで、被上告人は、被保全債権を乙債権に変更しました。


これに対し、上告人は、被上告人は、別件訴訟を提起した日(平成16年9月4日)には取消しの原因を知っていたのだから、乙債権を被保全債権とする詐害行為取消権については、民法426条前段により2年の消滅時効が完成を援用してきました。


原審は、本件訴訟の提起により、詐害行為取消権の消滅時効が中断したとして、被上告人の請求を認容しました。


これに対し、上告人は、所論は、被上告人が被保全債権を変更したことは、訴えの交換的変更に当たるから、乙債権を被保全債権とする詐害行為取消権には本件訴訟の提起による消滅時効の中断の効力は及ばないと主張しました。


<判旨等>
最高裁は、
詐害行為取消権の制度は、債務者の一般財産を保全するためのものであって、取消債権者の個々の債権の満足を直接予定しているものではないとしたうえで、
「詐害行為取消権は、取消債権者が有する個々の被保全債権に対応して複数発生するものではない」旨を述べています。


したがって、取消債権者の被保全債権に係る主張が交換的に変更されたとしても、攻撃防御方法が変更されたにすぎず、訴えの交換的変更には当たらないのだから、本件訴訟の提起によって生じた詐害行為取消権の消滅時効の中断の効力に影響がないとしました。


つまり、詐害行為取消権は、個々の債権の満足のためのものではなく、「債務者の一般財産」を保全するものだから、取消権が被保全債権ごとに複数発生するのではなく、債務者の一般財産の保全のために1個の詐害行為取消権が発生しているということのようです。


そうすると、訴訟物は、被保全債権ごとに○○債権を被保全債権とする詐害行為取消権に基づく本件売買契約の取消及び抵当権設定登記抹消請求権ではなく詐害行為取消権に基づく本件売買契約の取消及び抵当権設定登記抹消請求権1個ということですから、被保全債権が変更されたとしても、訴訟物の変更でなく、単なる攻撃防御方法の変更に過ぎないことになります。



民法第四百二十六条  第四百二十四条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。