最三判平成22年07月06日所得税更正処分取消請求事件

最三判平成22年07月06日


<事案>
上告人の夫は,年金払特約付きの生命保険契約の被保険者で,保険料を負担していた。
上告人の夫が死亡し,上告人は,契約に基づき年金受給権を取得し,第1回目の年金として夫の死亡日を支給日とする年金(支給額230万円から所得税法208条所定の源泉徴収税額22万0800円を控除した金額)の支払を受けた。
上告人は,相続税法24条1項1号の規定により計算した本件年金受給権の価額1380万円を相続税の課税価格に算入して相続税の確定申告をした。
上告人は,所得税の確定申告においては,当該年金の額を収入金額に算入せずに申告をしたところ,長崎税務署長から当該年金の額から必要経費を控除した額を上告人の雑所得の金額として総所得金額に加算することなどを内容とする更正処分を受けた。
これに対し,上告人は,当該年金は,相続税法3条1項1号所定の保険金に該当し,いわゆるみなし相続財産に当たるから,所得税法9条1項15号により所得税を課することができず,上記加算は許されない旨を主張して,上記更正処分の一部取消しを求めた事案である。


第一審は,上告人勝訴
原審は,被上告人勝訴

(ちなみに,第一審の裁判体の方々は,修習でお世話になったことのある方々です。)


所得税法9条1項柱書き「次に掲げる所得については,所得税を課さない。」,同15号「相続,遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法の規定により相続,遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)」の解釈が問題となっています。


判例
上記15号の「相続,遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」とは,相続等により取得し又は取得したものとみなされる財産そのものを指すのではなく,当該財産の取得によりその者に帰属する所得を指す。
当該財産の取得によりその者に帰属する所得とは,当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値であり,これは相続税又は贈与税の課税対象となるものである。
同号の趣旨は,相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして,同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税所得税との二重課税を排除したものである。


としたうえで,


相続税法3条1項1号は,被相続人の死亡により相続人が生命保険契約の保
険金を取得した場合には,当該相続人が,当該保険金のうち被相続人が負担した保
険料の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたもの
の全額に対する割合に相当する部分を,相続により取得したものとみなす旨を定め
ている。」
「年金の方法により支払を受ける場合の上記保険金とは,基本債権としての年金受給権を指し,これは同法24条1項所定の定期金給付契約に関する権利に当たるものと解される。」
「そうすると,年金の方法により支払を受ける上記保険金(年金受給権)のうち有期定期金債権に当たるものについては,同項1号の規定により,その残存期間に応じ,その残存期間に受けるべき年金の総額に同号所定の割合を乗じて計算した金額が当該年金受給権の価額として相続税の課税対象となるが,この価額は,当該年金受給権の取得の時における時価(同法22条),すなわち,将来にわたって受け取るべき年金の金額を被相続人死亡時の現在価値に引き直した金額の合計額に相当し,その価額と上記残存期間に受けるべき年金の総額との差額は,当該各年金の上記現在価値をそれぞれ元本とした場合の運用益の合計額に相当するものとして規定されているものと解される。
したがって,これらの年金の各支給額のうち上記現在価値に相当する部分は,相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものということができ,所得税法9条1項15号により所得税の課税対象とならないものというべきである。」

 そうすると,源泉徴収しちゃった保険会社の立場はどうなるのでしょうか?

「なお,所得税法207条所定の生命保険契約等に基づく年金の支払をする者は,当該年金が同法の定める所得として所得税の課税対象となるか否かにかかわらず,その支払の際,その年金について同法208条所定の金額を徴収し,これを所得税として国に納付する義務を負うものと解するのが相当である。したがって,B生命が本件年金についてした同条所定の金額の徴収は適法であるから,上告人が所得税の申告等の手続において上記徴収金額を算出所得税額から控除し又はその全部若しくは一部の還付を受けることは許されるものである。」


<雑感>
年金支給額には,元本部分と元本の運用益が含まれているそうで,元本部分については,現在価値(簡単に言うと,将来の100円は今の何円に相当するかと言うことです。例えば,30年前は,JR(国鉄?)の初乗りが100円でしたが,今は,130円です。つまり,電車賃について言えば,今の130円は,30年前は100円相当の価値だったと言うことになります。20年後に150円になるとすれば,20年後の150円は,今の130円の価値となります。現在の100円玉は,未来永劫,今と同じ価値ではないと言うことです。現在価値の話は,金利が拘わってきますが,ニュアンスとしては,そういうイメージです。)に引き直されて,年金受給権の取得の時における時価相続税が課されます。
しかし,後日,年金を支給されるとき,この元本部分相当についても所得税が課されることが二重課税にあたるとされたようです(運用益部分については課税対象となるのでしょう。)。
 なお,本件年金受給権は,相続等により取得したものとみなされる「保険金」(=保険金請求権)にあたるが,本件年金は,本件年金受給権に基づいて発生する支分権に基づいて上告人が受け取った「現金」であって,本件年金受給権とは法的に異なるので,「保険金」(=保険金請求権)にあたらないとして非課税所得にならないとしたのが原審でした。
 権利とその権利に基づいて貰ったお金,どっちも経済的価値は同じですよね。


ちなみに,減額更正は5年前の分までしか行われませんが,それ以前(20年前まで)については,国家賠償訴訟ができるかということが,一つ問題となってきます。


更正処分の取消訴訟を経ずに,国家賠償訴訟ができるかについては,最近,決着が付きましたので,問題はなくなりました(最一判平成22年06月03日)。
問題は,国家賠償訴訟の要件を充たすかと言うことになると思いますが,
最高裁の採る職務行為基準説からすると,おそらく


「違法性」が否定

されるのでしょう。もちろん過失がないとも言えますが,職務行為基準説から違法過失一元説てき発想をとり,公務員の職務行為には違法性がないと判断するのだと思います。


行政が和解に応じてくれれば,いいのでしょうが・・・。