平成22年10月15日相続税更正処分取消請求事件

最二判平成22年10月15日

  • 上告人の母が、所得税更正処分等の取消訴訟を提起していたところ、訴訟係属中に死亡し、上告人が訴訟を承継し、処分等の取消判決を勝ち取り確定した。これにより所得税等の過納金が上告人に還付されたところ、所轄税務署長から還付金請求権は相続財産を更正するとして相続税の更正処分を受けたため、上告人が更正処分の一部取り消しを求めた事案である。
  • 第一審は、上告人が勝訴したそうです。

しかし、原審は、上告人逆転敗訴、上告審でも上告人が敗訴しました。

  • 本件での主要な争点は、

本件過納金の還付請求権が、相続財産を構成するかという点のようです。


上告人は、本件過納金の還付請求権は,別件所得税更正処分の取消判決確定により初めて発生し,A(上告人の母)の相続開始時には訴訟係属中でまだ発生していなかったのだから相続財産を構成せず,原始的に被控訴人に帰属すると主張しています。

  • 判旨は、

取消訴訟判決が確定すると、行政処分の効果は、処分時に遡って効力を失う。
すると、処分に基づいて納付された納付された所得税,過少申告加算税及び延滞税は,納付の時点から法律上の原因を欠いていたこととなる。
そうすると、これら所得税等にかかる過納金の還付請求権は、納付時点で既に発生していたことになる。


つまり、簡単に言うと、別件所得税更正処分の取消判決確定によって、別件所得税更正処分は、最初から効力がないことになり、効力がないのに所得税等を納めさせてしまったのだから、納付した時点でこれらは、返さなければいけないお金だったのだということです。

で、返すべきお金となった時点(納付時)は、まだ上告人の母の存命中だったのだから、この返せという請求権も上告人の母の存命中に発生した上告人の母の財産であって、上告人の母が死亡すれば、その相続財産に含まれるんだ、としたのです。


そこで、結論として、上記所得税等に係る過納金の還付請求権は,被相続人の相続財産を構成し,相続税の課税財産となるとして原審の判断を是認しました。


なお、この事件は、原審も最高裁のHPに載っています。税務の強い法律事務所が上告人の側についており、他にも様々な主張を述べていて、なるほど良く思いつくななどと、なかなか面白いです。

  • 原審で上告人の主張をいくつか否定しているのですが、主なものを載せておきます。

「別件所得税更正処分が重大かつ明白な瑕疵により無効なのか,取り消し得べき瑕疵を有しているのかは,いずれも確定判決を待たなければ判明しないにもかかわらず,無効判決だった場合は還付請求権は納付時に発生しているので相続財産となり,取消判決だった場合は相続財産から外れることになる。このように,更正処分の瑕疵の重大性,明白性如何により相続財産性が左右されるのは相当ではない。」


処分が無効の瑕疵なのか取消うべき瑕疵なのかで相続財産かどうかが変わってしまう。とくに無効の瑕疵の方が重いのに、この場合、相続財産になり相続税が課されることは、バランスが悪いとも言えます。


「また,取消判決の確定時にAが存命であれば,当然本件過納金は相続財産となったにもかかわらず,訴訟係属中にAが死亡したという偶然のできごとによって,同じ本件過納金が相続財産とならなくなる。しかし,このように偶然のできごとによって相続財産性が左右されるのは相当ではない。」


還付金そのものは、不課税なんですよね。