仙台地方裁判所平成22年09月09日国家賠償請求事件


本件は,被告の倉庫が冷凍倉庫なのに一般倉庫と扱われて固定資産税や都市計画税を余分に徴収されたので、国家賠償請求をした事案です。


この事案、平成22年6月3日の最高裁判決が思い出されますね。
この判決が出たとき原告はガッツポーズが出たんじゃないでしょうか。


この事案の争点は、
1 地方税法の定める不服申立手続(法432条1項本文,法434条1項,2項,法702条の8第2項)によることなく,国家賠償請求を行うことが認められるか
2 被告に国賠法1条1項の違法性及び過失が認められるか
です。


1については、最高裁判決で決着がついてしまいました。
本判決も最高裁判決の流れの通り説示して、国賠と取消訴訟は要件効果が違うから、取消訴訟の排他的管轄とか公定力とかには抵触しない。だから、国賠でいきなり行ってもいいんだとしました。

公定力という言葉を裁判所はいつまで使うんでしょうか。もはや裁判所だけでしか使わない業界用語になりつつあります。


憲法17条及び国家賠償法1条1項において,当該行政処分の取消し又は無効確認の判決を得ることは要件とされていないところ,当該処分について公定力の存在を理由に国家賠償請求を否定することは,明文の根拠なく,上記憲法及び国家賠償法によって保障された国民の憲法上の権利を失わせることにもなりかねない。」


この一文は良いですね。行政法全域にこの精神を広めて欲しいものです。


2については、職務行為基準説により違法性を肯定し、過失も肯定しています。
職務行為基準説を採ると違法性一元論的発想になるので、まあ、こうなるでしょう。


「前記(1)で説示した解釈及びこれを踏まえた前記(3)における検討によって,被告担当職員に過失が認められることは明らかである。」
というように過失で書くことがなくなってしまいます。


ところで、職務行為基準説では、「当該課税に関与した担当職員において職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったと認め得るような事情がある場合に限り,違法の評価を受ける」


とされるのですが、この説では、内部の通達などに従って長年やっていた場合に、違法性がないとされる可能性が高いんです。


「取扱要領においては,昭和63年度の固定資産税の課税の以前から,記載された文言に若干の違いはあるものの,冷凍倉庫という文言については何ら修飾語句が付されないことを前提とした解釈,運用を行う方針で一貫していたといえるから,本件係争処分当時,被告担当職員においては,取扱要領によっても,文理解釈に従った冷凍倉庫と異ならない解釈及び運用を行うことが職務上要請されており,また,そのような運用を行うことは容易であったといえる。」


では、取扱要領で長年本件事案の運用が要請されていたらどうなるのでしょうか?


通達なんて内部で勝手に作ったもので、外部から見れば自分たちで作った基準に自分たちが従っていたから違法性も過失がないなどと言われたら納得できるのでしょうか。


通達の場合は、通達を作った国に国家賠償をするの?
これが取扱条例規則だったら?条例制定行為の国家賠償は、もっと難しいはずです。


職務行為基準説は、裁判・立法・公訴の提起・逮捕の違法性等,結果的に誤っていたとしても手続的に誤りがない場合に国家賠償責任を否定する論理として登場してきたものです。
しかし、逮捕は逮捕時に逮捕要件が揃っていて適法な手続に拠って行われたならば無罪判決によって遡って違法となるわけではなく、違法性を取消訴訟における違法と同視するいわゆる公権力発動要件欠如説によっても違法ではないとすることは十分可能でした。しかし、当時、結果違法説との対立軸で捉えていたため、職務行為基準説に拠ってしまったわけですが、やはり疑問です。


解決には、違法・過失を担当職員レベルで捉えるのではなく、客観的に違法な運用をしてしまった当該行政組織全体で過失を考えるなどの工夫が必要ですが、そうでない場合、違法無過失の場面において、救済されない国家補償の谷間の問題が残ってしまいます。


損失補償に準じて考える方法もありますが、やはり何らかの立法的手当は必要なのではないかと思いますね。