平成22年08月25日売却許可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件

最一決平成22年08月25日


<事案>
 甲府地裁が担保不動産競売の開始決定をし、期間入札の方法で競売手続をしたところ、相手方が入札書を入れた封筒に記載された事件番号が平成20年が正しいところ平成21年と誤って記載されていた。
 そのため、執行官は、正しい事件番号が記載された入札保証金振込証明書と封筒に記載された事件番号が異なることから、当該入札を無効と判断し、相手方(2250万円)より低い価格(1900万100円)で入札していた抗告人を最高価格買受人としたため、同人に本件不動産を売却することを許可する決定がなされた。
 そこで、相手方が執行抗告をしたという事案である。


<原審>
 原審は、? 相手方は民事執行法188条、74条1項に基づき執行抗告をすることができると解した上で、? 本件封筒を開封することなく,本件入札を無効と判断してされた本件不動産の売却の手続には重大な誤りがあり,法188条,71条7号所定の売却不許可事由があるとして,原々審の決定を取り消し,抗告人に対する売却を不許可とする旨の決定をした。


<抗告人の主張>
 抗告人は、当該入札人(相手方)が、自己が最高価格買受申出人と定められるべきと主張した執行抗告が認められても、新たな売却手続がとられ、当該入札人が再び買受けの申出が出来るという事実上の利益しかないので、当該入札人には抗告の利益がないと主張しました。


<判旨>
1 執行抗告の利益について
 これに対し、売却手続に重大な誤りがある場合、当該入札人が再び買受けの申出ができるにすぎないとすることは、売却許可決定を受けられるはずだった当該入札人の保護に欠ける一方、本件執行官の誤りによって、既に行われた売却の手続全体が瑕疵を帯びると解する理由はなく、当該瑕疵が治癒されれば当初の売却の手続を続行するのに何ら支障はないと判断して、「執行裁判所は,誤って最高価買受申出人と定められた者に対する売却を不許可とした上で,当初の入札までの手続を前提に改めて開札期日及び売却決定期日を定め,これを受けて執行官が再び開札期日を開き,最高価買受申出人を定め直すべきものと解するのが相当である。」と判示しました。
「なお,法及び民事執行規則(以下「規則」という。)には,入札人に対し買受けの申出の保証を再度提供させることを予定した規定は置かれていないが,執行裁判所は,改めて開札期日を定めるに当たり,期限を定めて買受けの申出の保証を提供させ,執行官はその提供をした入札人の入札のみを有効なものと扱えば足りる。」


そして、結論として「自らが最高の価額で買受けの申出をしたにもかかわらず,執行官の誤りにより当該入札が無効と判断されて他の者が最高価買受申出人と定められたため,買受人となることができなかったことを主張する入札人は,法188条,74条1項に基づき,この者が受けた売却許可決定に対し執行抗告をすることができる」としました。


2 本件入札が無効か否かについて
 本件入札は、封筒と前記証明書に記載された事件番号が一致していないから無効であるという主張に対して、最高裁は、
 民事執行規則が封筒に開札期日の記載を求めているが(民事執行規則47条)、事件番号や物件番号の記載を求めていないのは、開札期日の記載があれば当該封筒を改札すべき開札期日を特定できるので入札書の記載から判明する事件番号や物件番号については記載の必要がないからであるとして、
「当該封筒を開封すべき開札期日を特定することができるのであれば,当該封筒に記載された事件番号がその添付書類に記載されたそれと一致していないとしても,当該入札が無効であるということはできず,執行官は開札期日において当該封筒を開封することを要するものというべきである。」


とし、


本件においては、本件封筒を開封すべき開札期日を特定することができるから、無効ではないと判示しました。


☆ いずれしろ、書き間違いには注意したいところです。


<補足意見>
裁判官金築誠志の補足意見があります。
執行官が入札を誤って無効と判断した場合のような手続の具体的な内容について補足意見を述べています。


同補足意見は、
執行官が入札を誤って無効と判断した場合に改めて行われる売却の手続は、当初の手続の瑕疵を治癒する限度で行われるという前提を示し、実務の実情に応じて柔軟な運用が行われることが望まると締めくくった上で、以下のような手続の概要を提示しています。


1 当初の入札までの手続を前提に改めて開札期日を開いて最高価買受申出人を定め直すものにすぎないのだから、改めて開札期日及び売却決定期日が指定されれば足りる
通常の売却の手続においては、売却決定期日は、裁判所書記官が売却実施処分と同時に指定するものとされ(法188条、64条4項)、開札期日も裁判所書記官が定めるものとされているが(規則173条1項、46条1項)、執行官が入札を誤って無効と判断した場合に改めて行われる売却の手続は、売却決定期日の変更や取消しの権限が執行裁判所にあると解されているのに準じて、再度の開札期日及び売却決定期日を指定する権限は,執行裁判所にあると解するのが相当である(法20条、民訴法93条参照)。
 また,当初の開札期日の終了に伴い、買受けの申出の保証は、誤って最高価買受申出人と定められた入札人等の提供したものを除き、入札人に返還されているのが通常であろうから、執行裁判所は改めて開札期日を定めるに当たって、買受けの申出の保証を再度提供する期限を定めるのが相当である。


2 裁判所書記官は、規則37条各号に掲げる者に対し、開札期日及び売却決定期日を開く日時及び場所を通知するとともに(規則173条1項、49条、37条参照)、当初の売却の手続において適法な入札をした入札人のうち、最高の価額で買受けの申出をしたもの及びこの価額を前提とすれば次順位買受けの申出をすることができる価額で買受けの申出をしたものに対しては、上記日時等に加え、買受けの申出の保証を再度提供するために必要な事項(提供の期限,方法等)を通知して、再度の売却の手続に参加する機会を与える必要があると解される。


3 他方、執行官が入札を誤って無効と判断した場合に改めて行われる売却の手続においては、当初の入札を有効なものと扱い、新たな入札は予定されていないのであるから、公告(法188条、64条5項、規則173条1項、49条、36条1項)、公示等(規則173条1項、49条、36条2項)は、いずれも不要である。


4 執行官は、当初の入札のうち、上記1のとおり執行裁判所が定めた期限までに買受けの申出の保証を再度提供した入札人の入札を有効と扱った上で、再び開札期日を開くことになる。