ゴルフクラブ会員権の相続

● ゴルフ会員権の相続
  被相続人の遺産の中に、ゴルフクラブ会員権がありました。
  相続人としては、ゴルフクラブ会員権を相続したいと思っています。ところが、ゴルフクラブに連絡すると、会員規約に相続による承継の定めがないので、相続は承認しないと言っています。
  この場合、ゴルフ会員権は相続できないのでしょうか?

  

 この質問に関する結論を先に言ってしまうと次のようになります。


  預託金会員制ゴルフクラブにおいて、ゴルフクラブ会員権が相続の対象となるか否かは、規約によります(株主会員制ゴルフクラブにおいても同様に扱うものとされています。)。ただし、相続の定めが無くてもゴルフ会員権の譲渡に関する規定がある場合には、譲渡手続に準じて相続が認められます。

  
 ゴルフクラブの会員たる資格は、入会資格審査を経て取得されるものであり、当該会員の属性に着目して与えられるものなので、一身専属的性質を有し、相続の対象とはなりません(最判昭53.6.16判タ368号216頁)。
 しかし、入会承認を得ることを条件として会員となることが出来る資格を相続人が承継しうるかについては、当該ゴルフクラブの規則等に定められるところに従います。
 

つまり、


会則により、会員契約上の地位の相続による承継を否定し、会員の死亡により契約関係が終了する定めを置く場合は、相続による承継はされませんが、会則により相続による承継を肯定する場合は、相続による承継がなされます。
会則に相続に関する規定がない場合、会則に会員契約上の地位の譲渡を認める規定があれば、相続の承継が認められ、通常の地位の譲渡と同様に、理事会の入会承認を得ることを条件に会員となることの出来る地位を取得します(最判平9.3.25民集51巻3号1609頁)。


POINT
ゴルフクラブの資格は、次の2種類の資格が含まれ、それぞれの法的性格及び相続の対象となるかには、違いがあります。
1 ゴルフクラブの会員たる資格
2 入会承認を得ることを条件として会員となることが出来る資格


一 ゴルフクラブの会員たる資格=相続の対象外
二 入会承認を得ることを条件としてゴルフクラブ会員となることが出来る資格=ゴルフクラブの規則に従う。
 1 規則に相続承継の定め有り→相続の承継あり
 2 規則に譲渡の定め有り→相続の承継あり
 3 何もなし→相続による承継なし

 したがって、相続手続にどのような条件を付するかは、入会審査同様、原則ゴルフクラブ側の自由であり、著しく不合理でなければ、所定の手続に従わざるを得ません。


● ゴルフ会員権の相続を巡る判例


☆ 最判昭和53年6月16日判タ368号216頁
会員死亡時におけるゴルフクラブの会員資格喪失の規定があった事案


「被上告クラブの会員たる地位は一身専属的なものであって、相続の対象となりえない」


☆ 最判平成9年3月25日民集51巻3号1609頁
会則に会員死亡時における会員たる地位の帰趨についての規定がなかったが、会員の地位の譲渡に関する規定はあった事例


ゴルフクラブの正会員が死亡しその相続人がその地位の承継を希望する場合には、正会員の地位が譲渡されたときに準じ、当該ゴルフクラブの会則等の定めに従って、当該ゴルフクラブの正会員の地位を取得できるとした原審の判断を認めた。


理由としては、
1 正会員としての地位の変動という結果に着目すれば、譲渡によるものか相続によるものかで特に選ぶべきところはない。
2 当該ゴルフクラブでは、会員の地位の譲渡が認められているので、会員の固定性は既に放棄されている。
3 したがって、会員が相続した場合に相続人自身がこれを承継することを禁ずべき根拠は見いだし難い。
4 本件ゴルフクラブの会則等は、ゴルフクラブ正会員としての地位が、単に金銭的な権利義務のみならずゴルフ場施設の利用権も一体的に含むものとして、いわゆるゴルフ会員権市場において売買や担保設定のために広く取引されることを想定している。
5 会員の死亡による地位の承継について譲渡に準じて理事会の承認を要することで、ゴルフクラブの親睦的団体としての性格の保持を達成することは可能である。


 この判決は、会則上、会員の地位の譲渡が認められている場合に、会員の地位の相続性を認めて上で、譲渡の手続(理事会の承認)を要求することで、「会員としてふさわしくないものを入会させないことでゴルフクラブとしての品位を保つ」という要請など相続性を肯定したことにより生じるゴルフクラブ運営上の問題点を回避する要請との調和を図ったものと解釈されています。


 この場合、相続人は、相続により入会承認を停止条件とする会員としての地位を承継取得するとする見解が有力です(東京高判平成3年2月4日判時1384号51頁参照)


ゴルフクラブ会員と組合
民法上の組合=死亡が脱退事由(民法679条1号)
会社法上の持分会社の社員=死亡が法定退社事由(会社法607条3号)
 両者とも構成員間の人的信頼関係が基礎となっているため、相続人とはいえ、見知らぬものが当然に参加することが好ましくないとされるからです。
 一方、ゴルフ会員権についても、入会審査等において会員たるにふさわしいかの審査がされるなど、人的信頼関係が考慮されています。
 また、相続人が複数いる場合、思わぬ構成員の増加が生じることにより、ゴルフ会員権では、複数の相続人により準共有の状態が生じ、ゴルフ会員数の管理が出来なくなったり、預託金の承継の問題も生じるなど、さまざまな問題が生じないと言うことも実質的な理由となるようです。実際、会員権の承継を認める場合でも、相続人のうち1名というように条件を規定するゴルフクラブが多いようです(相続を肯定すると、このような規定の有効性が問題となりかねません。なお、持分会社では会社法608条5項により調整がなされています。)。
したがって、ゴルフ会員権も会員の死亡により資格を失うのが原則であり、一身専属的な権利であるとされています。
 もっとも、これらは抽象的な建前であり、規定を設けて相続を承認することも可能であり、例えば、持分会社においては、定款に定めることにより相続人に対して社員の地位を承継することも可能です(会社法608条1項)。
 ゴルフ会員権についても同様であり、会則等により相続人にゴルフクラブの会員たる地位を承継させることも可能です。要は、規定の有無ということになります。


● 預託金返還請求権等
 なお、預託金返還請求権など一身専属的でない権利は相続します。また、逆に、ゴルフクラブに対する年会費等の未納があれば、その支払義務も相続します。
 ただし、ゴルフクラブの会員たる地位の相続が認められる場合は、会則に預託金の返還が認められる規定がない限り、相続人が預託金の返還を求めることは出来ません。
 ゴルフクラブの会員たる地位が相続されたのですから相続人も預託金を預託する義務があるからです。