平成22年07月20日請負代金請求事件

最三判平成22年07月20日


<事案>
被上告人から熱電供給システムの製造及び設置に係る工事を請け負った上告人が,被上告人に対し,請負代金3045万円及びこれに対する平成18年12月8日からの遅延損害金の支払を求めた事案である。


<事実関係等>
Aは,温泉施設「甲」の建設を計画し,同施設に本件システムを導入することを検討した。
Bは,Aから相談を受けて、上告人との本件工事の施工について交渉を始めた。
Aは,Bに対し,本件システムを発注した。
その当時,AとBは,本件システムについて,BがCに売却した上で,AがCとの間でリ
ース契約を締結することを予定していた。
上告人は,Bから,本件工事を請負代金2900万円で打診され,代金額については了承
したが,請負代金の支払を確保するために,信用のある会社を注文者として介在させることを求めた上,本件工事に着手した。
被上告人は,Bから依頼を受け、上告人との間で,請負代金を2900万円として,本件工事の請負契約を締結するとともに,本件システムをBに代金3070万円で売り渡す旨の売買契約を締結した。
本件請負契約の締結に当たり,被上告人が上告人に交付した注文書には,「支払いについて,ユーザー(A)がリース会社と契約完了し入金後払いといたします。手形は,リース会社からの廻し手形とします。」との記載があった。
上告人は,本件工事を完成させて,本件システムをAに引き渡した。
AとCとの間で,本件システムのリース契約が締結されないことになった。



<判旨等>
まず、原審は、
「本件請負契約は,AとCとの間で本件システムのリース契約が締結されることを停止条件とするものである」とし,「上記リース契約が締結されないことになった時点で無効であることが確定した」として、上告人の請求を棄却しました。
(無効になったあとは、どうするんですかね?ACに損害賠償でも請求するのでしょうか?本件スキームに巻き込まれた被上告人の立場や被上告人の取引に対する期待を考えると、被上告人にちょっと酷な気もします。)


これに対し、本判決は、
まず、AC間で予定されていたリース契約について、「いわゆるファイナンス・リース契約であって,Aに本件システムの代金支払につき金融の便宜を付与することを目的とするものであったことは明らかである。」

としたうえで、

「上記リース契約が成立せず,Aが金融の便宜を得ることができなくても,Aは,Bに対する代金支払義務を免れることはないというのが当事者の合理的意思に沿うものというべきである。」

と判示しました。

さらに,上告人が,本件工事の請負代金の支払確保のため,信用のある被上告人をあえて注文者として本件請負契約が締結されたことから、
「上記リース契約が締結されないことになった場合には,被上告人から請負代金が支払われることが当然予定されていたというべき」とし、「本件請負契約に基づき本件工事を完成させ,その引渡しを完了したにもかかわらず,この場合には,請負代金を受領できなくなることを上告人が了解していたとは,到底解し難い。」

としたうえで、

「本件請負契約は,AとCとの間で本件システムのリース契約が締結されることを停止条件とするものとはいえず,上記リース契約が締結されないことになった時点で,本件請負契約に基づく請負代金の支払期限が到来すると解するのが相当である。」

と判示しました。


実質的に見れば、CがAにお金を融通してAの代わりにBに払い(BC売買)、Aが分割でCに返済し(ACリース)、Bは、Cから得た資金(手形)を被上告人を通じて支払(B上告人売買)、被上告人は、その支払を保証する(被上告人上告人請負契約)契約なんでしょう。


被上告人は、Cからの資金の到着を待って支払うという契約ですが、実質的には保証人的立場であるので、Cからの資金の到着がないということになれば、保証人としての義務を履行すべきというのが、本件スキームの実質から見ると妥当ということなのでしょう。
こういう技巧的スキームについては、実質を見て判断する必要があります。