平成22年07月16日贈与税決定処分等取消請求事件

最二判平成22年07月16日


<事案>
社団たる医療法人Aの増資に当たり被上告人らが出資を引き受けたことについて,被上告人らは著しく低い価額の対価で利益を受けたものであり,相続税法9条所定のみなし贈与に当たるとして,上告人が,被上告人らに対し,それぞれ贈与税の決定及び無申告加算税の賦課決定をしたところ,被上告人らは,上告人は上記出資の評価を誤ったものであり,みなし贈与に当たらないなどとして,本件各処分の取消しを求めている事案である。


<登場人物>
医療法人A会
医療法人A会を設立したB
Bの長女X2
X2の夫(Bの娘婿)X1
X1X2夫婦の子(Bの孫)X3X4


<事実>
○ A会定款
1 出資社員が退社時に受ける払戻し及び本件法人解散時の残余財産分配は,いずれも運用財産についてのみすることができる。
2 解散時の残余財産のうちの基本財産は国又は地方公共団体に帰属する。
3 これらの払戻し等に係る定款の定めの変更はできない。
なお、基本財産と運用財産の各範囲に係る定款の定めについては変更禁止の対象外(ポイント)

平成10年5月出資口数90口の増資
X1〜X4に割り当て
1口あたり5万円

増資当時のA会の財産
財産全体の評価約7億
基本財産 約24億
運用財産 約17億円の債務超過(赤字)

評価方式
類似業種比準方式(評価通達194−2)
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka/08/06.htm#a-194_2

上告人は、財産全体の評価を前提とし、類似業種比準方式により評価し、1口あたり約379万円と算定し、贈与税の決定及び無申告加算税の賦課決定をした。


<判旨等>
原審
上記運用財産から財産の分配や出資の払い戻しをする定款の規定を尊重し、評価の基準となる資産価値は運用財産を基準とすべきとし、本件のように基本財産と運用財産を区別しない業者を標本とする類似業種比準方式による評価を採用せず、出資1口あたりの評価額は5万円を上回るものではないとして、被上告人らの請求を認容しました。


本判決は、
出資社員は,法令で許容される範囲内において定款を変更することにより,財産全体につき自らの出資額の割合に応じて払戻し等を求め得る潜在的可能性を有する。
定款の定めのいかんによって,当該法人の有する財産全体の評価に変動が生じない。

としたうえで、

「持分の定めのある社団医療法人の出資は,定款の定めのいかんにかかわらず,基本的に上記のような可能性に相当する価値を有する」。

としました。


定款の定めについては、
定款の払戻し等に係る定めの変更禁止条項について、法令において定款の再度変更を禁止する定めがなく,この条項により,法的に当該変更が不可能になるものではない。
基本財産と運用財産の範囲に係る定めは変更禁止の対象とされていないから,運用財産の範囲が固定的であるともいえない。

として、

本件においては,本件増資時における定款の定めに基づく出資の権利内容がその後変動しないと客観的に認めるだけの事情はない。


と判断し、


A会の財産全体を基礎として類似業種比準方式により評価することには合理性があるとし、原判決を破棄しました。


なお、古田裁判官の補足意見では、定款変更の可能性から直ちに合理性を認めることはせず、本件のような法人においては、少数の持分権者が長期に保有して法人を支配することが多く、処分により価値の実現を図ることはまれであるから、法人の全資産に応じた保有価値によって持分を評価することが合理的であるとしています。

また、須藤裁判官の補足意見においては、当該社団医療法人の出資持分1口あたりの時価である客観的交換価値は、企業価値全体を出資持分の口数で除した金額であるとしています(定款そのものの変更権が剥奪されていない限り制約を取り除けることから、定款の制約により左右されないとしています。)。


任意で変更される余地がある限り、潜在的な価値は否定されないようです。
ちょっと手間をかければ、いつでも価値を元に戻せるということでしょうか。