平成22年07月15日損害賠償請求事件

最一判平成22年07月15日


<事案>
参加人(会社)の取締役上告人らが、A社の株式を1株当たり5万円の価格で参加人が買い取る旨の決定をしたことについて、参加人の株主である被上告人が、上告人らに対し、取締役としての善管注意義務違反があり、会社法423条1項により参加人に対する損害賠償責任を負うと主張して、同法847条に基づき、参加人に連帯して1億3004万0320円及び遅延損害金を支払うことを求める株主代表訴訟である。


<事情>
Aは、平成13年に設立された会社であり、設立時の株式の払込金額は5万円であった。
参加人は、Aの発行済株式総数の約66.7%保有していた。
参加人は、参加人を持株会社とする事業再編計画を策定し、関連会社の統合、再編を進めており、Aについては、参加人の完全子会社であるB社と合併することが計画された。
1株当たり5万円の買取価格でAの株式の買取りを実施することが決定され、買取りに応じないことが予想された株主については、株式交換の手続が必要となる旨の説明がされ、了承された。
参加人は、株式交換に備え、監査法人等2社に株式交換比率の算定を依頼した。提出された交換比率算定書の一つにおいては、Aの1株当たりの株式評価額が9709円とされ、他の一つにおいては、類似会社比較法による1株当たりの株主資本価値が6561円ないし1万9090円とされた。
参加人は、平成18年6月9日ころから同月29日までの間に、本件決定に基づき、参加人以外のAの株主のうち、買取りに応じなかった1社を除く株主から、株式3160株を1株当たり5万円、代金総額1億5800万円で買い取った。
その後、参加人とAとの間で株式交換契約が締結され、Aの株式1株について、参加人の株式0.192株の割合をもって割当交付するものとされた。


<原審>
上告人らに対し、参加人に連帯して1億2640万円及び遅延損害金の支払を命じた。

1 本件買取価格は、Aの株式1株当たりの払込金額が5万円であったことから、これと同額に設定されたものであり、それより低い額では買取りが円滑に進まないといえるか否かについて十分な調査、検討等がされていないこと。
2 既にAの発行済株式の総数の3分の2以上の株式を保有していた参加人において、当時の状態を維持した場合と比較してAを完全子会社とすることが経営上どの程度有益な効果を生むかという観点から検討が十分にされていないこと
3 本件買取価格の設定当時のAの株式の1株当たりの価値は株式交換のために算定された評価額等から1万円であったと認めるのが相当であること等からすれば、本件買取価格の設定には合理的な根拠又は理由を見出すことはできず、上告人らは、取締役としての善管注意義務に違反して、その任務を怠ったものである。



要するに、検討が不十分だったということと、株式交換のために監査法人に依頼して算定してもらった評価額が1万円前後だったのに、5万円の買い取り価格を設定したのは合理的理由がないということで、取締役の善管注意義務違反を認めました。


<判決について>
原審の上記判断は是認することができない。


1 本件取引は、AをBに合併して不動産賃貸管理等の事業を担わせるという参加人のグループの事業再編計画の一環として、Aを参加人の完全子会社とする目的で行われたものであるところ、このような事業再編計画の策定は、完全子会社とすることのメリットの評価を含め、将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられていると解される。

2 この場合における株式取得の方法や価格についても、取締役において、株式の評価額のほか、取得の必要性、参加人の財務上の負担、株式の取得を円滑に進める必要性の程度等をも総合考慮して決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではないと解すべきである。


として、事業再編計画の策定を経営上の専門的判断に委ねるとして、経営上の裁量権を広く採った上で、株式の評価額以外の要素も広く総合考慮できるとし、株式取得の方法や価格について、決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に反しないとしました。


そのうえで、


1 参加人がAの株式を任意の合意に基づいて買い取ることは、円滑に株式取得を進める方法として合理性があるというべきである

2 その買取価格についても、Aの設立から5年が経過しているにすぎないことからすれば、(設立時の)払込金額である5万円を基準とすることには、一般的にみて相応の合理性がないわけではない。

3 参加人以外のAの株主には参加人が事業の遂行上重要であると考えていた加盟店等が含まれており、買取りを円満に進めてそれらの加盟店等との友好関係を維持することが今後における参加人及びその傘下のグループ企業各社の事業遂行のために有益であった。

4 非上場株式であるAの株式の評価額には相当の幅があり、事業再編の効果によるAの企業価値の増加も期待できた。


として、1株あたり5万円の買い取り価格は著しく不合理では言えないと判断し、さらに、


5 本件決定に至る過程においては、参加人及びその傘下のグループ企業各社の全般的な経営方針等を協議する機関である経営会議において検討され、弁護士の意見も聴取されるなどの手続が履践されている。


として、その決定過程にも、何ら不合理な点は見当たらない。
と判断し、上告人らの判断が参加人の取締役の判断として著しく不合理なものといえないとし、取締役としての善管注意義務違反を否定しました。


将来予測の専門的判断に、取得の必要性や円滑を考慮すると、裁量の幅はかなり広くなりそうで、財務上の負担くらいしか歯止めがなさそうです。
そこで、最後に手続に触れていますが、これがどういう位置づけなのかは、いまいち不明です。
行政裁量における手続的コントロール的な発想があるのでしょうか?
これは、専門的判断が要求され、能力的観点から裁判所による判断がふさわしくないとされる場合に、手続的観点から裁量の統制をしようとする発想で、専門的判断に対する裁量統制の発想としては、類似性を感じてしまいます(取消訴訟善管注意義務違反における違法の性質は異なるので、具体論になるとだいぶ異なるのでしょうが抽象的発想は似ていると思います。)。
そうすると、手続の履践が、合理性判断において、多分に影響力を及ぼすんでしょうかね。