最三判平成22年06月29日執行文付与請求事件

最三判平成22年06月29日

<事案>
本件は,権利能力のない社団に債務名義を有する上告人が,被上告人登記名義の本件不動産は,Aの構成員全員に総有的に帰属しており,登記名義人は,民事執行法23条3項所定の「請求の目的物を所持する者」に準ずる者であると主張して,上記債務名義につき,被上告人を債務者として本件不動産を執行対象財産とする法27条2項の執行文の付与を求める事案である。


権利能力なき社団の不動産は,権利能力なき社団名義で登記が出来ません。
そうすると,権利能力なき社団に債権を持っている人は,権利能力なき社団が払ってくれず不動産以外に財産がない場合,どうしたらよいのでしょうか。
問題は,権利能力なき社団の財産である不動産の名義が,権利能力なき社団ではないということです。


判例
「権利能力のない社団を債務者とする金銭債権を表示した債務名義を有する債権者が,構成員の総有不動産に対して強制執行をしようとする場合において,上記不動産につき,当該社団のために第三者がその登記名義人とされているときは,上記債権者は,強制執行の申立書に,当該社団を債務者とする執行文の付された上記債務名義の正本のほか,上記不動産が当該社団の構成員全員の総有に属することを確認する旨の上記債権者と当該社団及び上記登記名義人との間の確定判決その他これに準ずる文書を添付して,当該社団を債務者とする強制執行の申立てをすべきものと解するのが相当であって,法23条3項の規定を拡張解釈して,上記債務名義につき,上記登記名義人を債務者として上記不動産を執行対象財産とする法27条2項の執行文の付与を求めることはできないというべきである。」


<雑感>
判例は,登記名義人ではなく,「債務者」である「社団」を債務者とする強制執行の申立をすべきとしています。
問題は,強制執行の申立書に,当該社団を債務者とする執行文の付された上記債務名義の正本のほか,上記不動産が当該社団の構成員全員の総有に属することを確認する旨の債権者と社団及び登記名義人との間の確定判決その他これに準ずる文書を添付するよう判示しています。


裁判官田原睦夫の補足意見では,以下のことが書かれており,参考になります。

  • 登記名義が権利能力のない社団の代表者名義の場合
  • 権利能力のない社団を構成する者の全員の共有名義の場合
  • 権利能力のない社団の規約等に定められた手続により登記名義人となるべき者とされた者の名義の場合

社団と登記名義人の関連性が明らかであり,執行対象不動産の登記名義人と執行債務者の名義とが一致している場合に準じて執行手続を行うことが許される。


2 登記名義人が権利能力のない社団の旧代表者である等,現在の登記名義人と権利能力のない社団との関連性が債務名義等からは明らかでない場合は,
社団に代位して(社団自体に登記請求訴訟の原告適格が認められないならば,さらに,当該社団において登記名義人たることが定められている者を代位して),当該社団において登記名義人であるとされる名義人への移転登記手続を請求して,その移転登記手続を経たうえで,上記執行手続をなすことが望ましい。


3 権利能力のない社団を名宛人とする金銭債権を表示した債務名義に基づいて,構成員の総有不動産に対する強制執行を申し立てるに際しては,当該不動産が執行債務者たる権利能力のない社団との関係において,当該社団の構成員の総有に属することが証明されるとともに,当該不動産の登記名義人との関係においても,その事実が文書によって証明される必要がある(民事執行規則23条1号,2号イ参照)。
その具体例としては,
1)権利能力のない社団及び登記名義人との関係で,それぞれを名宛人とする確定した確認判決や判決理由中の判断(いずれか一方を名宛人とするものであっても,例えば,債権者代位による権利能力のない社団の代表者名義への移転登記手続請求の認容判決のように,当該不動産が構成員の総有不動産であることが判決理由中から明らかな場合等を含む。)
2)和解調書
3)当該不動産が権利能力のない社団の構成員の総有に属することを記載した公正証書
4)登記名義人を構成員の特定の者(個人又は一定の役職者等)とすることを定めた規約(公正証書又はそれに準ずる証明度の高い文書による。)などが考えられる。


4 保全手続について
関連性が明らかな場合には,当該不動産がその構成員の総有に属することを証明して仮差押えの申立てをする
関連性を文書によって直ちには立証することが困難な場合には,2に述べたような債権者代位権に基づく処分禁止の仮処分手続の方が,実務上親和性がある。


とのことです。


結構面倒くさいですね。
権利能力なき社団を相手に取引をするのは,連帯保証人でもいない限り,やはり慎重にならざるを得ないということでしょう。