最三判平成22年06月29日目隠しフェンス設置等請求事件

最三判平成22年06月29日

<事案>
被上告人が,自宅の向かい側で葬儀場を営業している上告人に対し,?人格権ないし人格的利益に基づき,又は民法235条を類推適用して,上記葬儀場において目隠しのために設置されているフェンスを更に1.5m高くすること,?不法行為に基づき,慰謝料及び弁護士費用相当額の支払を求めた事案である。


家の目の前に葬儀場があったら・・・難しいところです。


<事実関係>
1 葬儀場と被上告人建物との間には幅15.3mの市道がある。
2 葬儀場の様子が見える場所は,被上告人建物のうち2階東側の各居室等に限られる。? 告別式等が執り行われるのは1か月に20回程度である。
3 棺の搬入や出棺は,速やかに,ごく短時間に行われている。
4 葬儀場建物の建築や葬儀場の営業自体は行政法規の規制に反しない。
5 上告人は,葬儀場建物を建設することについて地元説明会を重ねた上,本件自治会からの要望事項に配慮して,目隠しのための本件フェンスの設置,入口位置の変更,防音,防臭対策等の措置を講じている。


判例
最高裁は,これらの事情を総合考慮したうえで,
「被上告人の主観的な不快感にとどまるというべきであり,本件葬儀場の営業が,社会生活上受忍すべき程度を超えて被上告人の平穏に日常生活を送るという利益を侵害しているということはできない。」
として,上告人が,被上告人に対して被上告人建物から本件葬儀場の様子が見えないようにするための目隠しを設置する措置を更に講ずべき義務や本件葬儀場の営業につき不法行為責任を負うこともないとしました。


<雑感>
非常に微妙な問題で,結構限界事例かもしれません。
葬儀場は,嫌悪される施設かもしれませんが,どこかにはなければならない施設であり,また,産廃場のように公害に作られるものでもなく,大都市では住宅街を避けて作ることは困難なのは確かです。
誰もが必ず利用する施設であり,主観的な嫌悪感のみで完全に封をするわけにもいかないでしょう。
本件でも,判例は,本件の事実関係を慎重に考慮しており,葬儀場側の配慮の度合いと住民の被害の程度を考量して,葬儀場側が配慮すべきところは配慮していれば,それを超える主観的嫌悪感は受忍せざるを得ないのでしょう。
本件では,説明会を何回も開き,ある程度のフェンスを設置するなど葬儀場も近隣住民の要望に配慮していること,葬儀が見えるのは被上告人の2階の部屋に限ることなどから,受忍限度を超えた被上告人の人格権等の侵害はないと判断されたのでしょう。
なので,葬儀場側の姿勢や住民の住居の状況など事案により結論が変わる可能性はあると思われます。