最一判平成22年06月03日損害賠償請求事件

最一判平成22年06月03日

<事案>
 被上告人は,冷凍倉庫を一般倉庫として高い固定資産税などの税金を納付していたところ,区長が5年分だけ減額更正してくれて,その分,還付を受けたのだが,余分に税金を取られていたのは,もっと前からであったので,その前の15年分についても返せ(賠償しろ)とした事案です。

 当然返してやれと言えそうですが,一審,原審ともに敗訴しています。
 なぜかというと,課税処分のような行政処分と言われるものは,通常(無効の瑕疵,つまり,重大で明白な瑕疵がない限り),取消訴訟という特別の手続を得なければ取り消せないというルールがあり,本件課税処分のように金銭の納付・支給を直接とする行政処分が取り消されると,拘束力というものを通じて,金銭が戻ってきます。
 ところが,国家賠償請求が認められても,金銭は戻ってくる。
 取消訴訟の出訴期間は,国家賠償請求の時効より短い。
 そうだとすると,取消訴訟の出訴期間を過ぎた後にも国家賠償請求ができることとなり,せっかく取消訴訟の出訴期間を短くした意味がなくなってしまう。ほかにも,課税処分の取消訴訟が通るべきルート(不服申立前置)が通られなくなってしまう。
 要するに,抜け穴みたいなものが出来てしまうのでダメだ,ということです。

判例
「たとい固定資産の価格の決定及びこれに基づく固定資産税等の賦課決定に無効事由が認められない場合であっても,公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは,これによって損害を被った当該納税者は,地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく,国家賠償請求を行い得るものと解すべきである。」

<雑感>
 国家賠償請求をするのに取消訴訟が必要だなんて規定はどこにもない,ということで,あっさり破棄差戻しされてしまいました。
 国家賠償請求の原因となる違法な行政処分が,たまたま金銭の徴収を目的とするからと言って,法律の根拠もなく,国家賠償請求が制限する理由はないですからね。それに国家賠償請求が認容されても行政処分自体の効力には影響がないことは,たとえ金銭の徴収を目的とするものでも同じなので,取消訴訟で処分を取消す必要はないですよね。
 なお,この話は,取消訴訟の違法性と国家賠償訴訟の違法性の異同の問題も絡みますが(判例は,国家賠償において職務行為基準説という立場にあり,両者の違法性は異なるという立場なので,本来,今回の結論にはなりやすい性質がありました。),長くなるので割愛します。