平成22年10月14日雇用関係存在確認等請求事件

最一判平成22年10月14日


本件は、某大学の助教授が定年規定により満65歳で定年退職になると伝えられ、退職辞令を受けたのに対し、某大学教育職員は、現実には70歳を超えて勤務する者が相当多数存在しており、定年規定はないに等しく、理事も80歳くらいまで勤務することは可能であるとの趣旨の話をして、そのように認識していたことから、某大学との間で定年を80歳とする合意があったと主張して、雇用契約上の地位を有することの確認並びに未払賃及び将来の賃金等の支払を求めた事案です。


原審は、本件合意があったとは認められないとして地位確認請求を棄却しましたが、某大学には、少なくとも、定年退職の1年前までに、被上告人に対し、定年規程を厳格に適用し、かつ、再雇用をしない旨を告知すべき信義則上の義務があったとして、賃金請求について、一部を認容しました。


これに対し、最高裁は、
当事者双方とも、某大学が定年規程による定年退職の効果を主張することが信義則に反するか否かという点については主張しておらず、本件の争点は本件合意の存否である旨が確認されていたのに、信義則違反を理由に一部認容したことについて、


信義則違反の点についての判断をするのであれば、原審としては、適切に釈明権を行使して、被上告人に信義則違反の点について主張するか否かを明らかにするよう促すとともに、上告人(某大学)に十分な反論及び反証の機会を与えた上で判断をすべきとして、


原審には、釈明権の行使を怠った違法があるとして、原審を破棄し、差し戻ししました。



弁論主義の原則からは、裁判所は、当事者が主張していない事実を認定して裁判の基礎とすることは許されないとされています。そして、弁論主義は、権利の発生、変更、消滅といった法律効果を判断するのに直接必要な事実である「主要事実」に適用されるとされています。
すると、当事者が信義則違反の点を主張していないのに、それを認定して裁判をすることは、弁論主義に違反するようにも見えます。
しかし、信義則のような一般条項については、信義則というのは、そういう事実と言うより、ある事実を評価して成立するものです。つまり、ある事実が認定されて、「う〜ん、これは信義則に違反するねえ」というふうに評価(法的判断)して成立します。
そのため、信義則という認定された事実に基づく評価(規範的評価)ではなく評価の根拠となる事実(評価根拠事実)が主要事実(ないし主要事実に準ずるもの)であるとする見解がかなり有力となっています。
そうすると、信義則の成立を基礎づける具体的事実そのものが主張されていれば、信義則に反するか否かの主張がなくても、弁論主義には違反しないようにも思えます。


ですが、いきなり誰もいっていない信義則が認定されたらどうでしょう。
「信義則が認定されるなら、信義則の根拠となる事実について、もっと争ったのに・・・」
となります。


つまり、当事者、とりわけ敗訴者側にとっては、これは不意打ちになり、手続保障上好ましくありません。
そこで、裁判所としては、釈明権を行使して「信義則の点を主張しますか」とすれば、この点が争点となり、十分な反論反証の機会が得られます。
釈明権というと裁判所の権利のようにも見えますが、適切な釈明権を行使することは、義務でもあるので、これを怠った場合は、違法となる場合があります。


差し戻されて、信義則について争って、どういう結果になるのか。某大学側がどういう反論をしてくるかですかね。

小沢氏側が、検察審査会の議決に対し、無効確認訴訟をしたらしい。


以前、同様の事案では、検察審査会の議決は、起訴を強制するものではないから処分性がないとして蹴られています。


処分性というのは、「国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」などという定義が最高裁判例から定義づけられていて、これにあたらないと行政訴訟は却下されてしまいます。


以前の事例では、検察審査会の議決は、検察に起訴を強制してないのであるからという理由で蹴られています。つまり、「直接国民の義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められている」わけではないので処分性がないということでしょう。


しかし、今は、「起訴が強制されている」ということで、処分性が認められると再チャレンジをすることとなりました。


さて、素直に裁判所は認めてくれるのか?


それとも・・・検察審査会の議決を争わなくても、起訴の段階で争えば足りる。そして、起訴処分については、行政訴訟では争えない。刑事裁判の中で争ってくれ。
っていう感じで、ばっさり切られたりして。


起訴の段階で争えと言うのは、行政計画でよく見られた一種の青写真論に近い発想ですが、こういう論理を採るのか?
検察審査会の議決と検察の起訴を一連に捉えれば、公訴権濫用論同様に、刑事手続内で争えば良いという考えもなくはないのかな。


被起訴者の救済の観点からすれば、早く争えるに越したことはないだろうが。


あと、無効確認訴訟で審査会の議決が無効となった場合、後行の起訴が無効になるかは、また争点となり得る。違法性の承継の問題だ。確かに、審査会の議決がなければ起訴はなかったのだが、それ自体が起訴手続に違法性を生じさせるかは、また別に検討の余地がある。


それと、刑事手続が執行停止されずに先行すると、先に有罪判決が出たあとに、無効確認がされたらどうなるのだろうか?


もし、違法性が承継されるとして、有罪判決が取り消されたとすると、本来有罪であったのに起訴しなかった検察の問題にもなる。また、小沢氏自身に対する世論の風当たりも強くなる。小沢氏側は、審査会の違法な議決がなければ有罪判決はでず、損害を被らなかったのだから国家賠償請求でもするのか?


けっこう複雑だ。

株式会社の新設分割が詐害行為取消権の対象となることが肯定された事例

東京地判平成22年5月27日金融・商事判例1345号26頁


最近、会社分割を利用した債務逃れがしばしば起きているようです。
債務者が、会社を新設して、メイン事業を承継させ、取引債権債務も承継させたくせに、事業融資の債務は承継させず、すっからかんになった会社に残しておくというパターンです。いくら新設会社の株式をもっているから資産が変わらないなんて現実に通用するのかと非常に疑問に思っておりました。
業界に入りたての頃、この種の事案に直面して、赤面ものの回答をしてしまったという苦い思い出があります。


本件において、以下の点が争点となっています。
○新設分割は詐害行為取消権(民法424条)の対象になるか
※ 原告
新設分割も財産の移転を要素とするものだから財産権を目的とする法律行為にあたり詐害行為取消権の対象となる。事業譲渡と変わらないと言う主張です。
※ 被告
組織行為だから財産権を目的とする法律行為でないので詐害行為取消権の対象とならない。
※ 判例
「新設分割は、新設分割会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を新設分割設立会社に承継させる法律行為であり、その事業に関して有する権利義務であるから、新設分割は、財産権を目的とする法律行為にほかならない」。
として、原告と同様の立場に立ちました。


○分割無効の訴えとの関係
※ 被告
詐害行為取消権を認めると、法的安定性が害されることを防止しようとして分割無効の訴えに拠らしめるとした会社法の趣旨が没却される。
※ 原告
新設分割設立会社への承継の対象とされなかった債務の債権者は、新設分割に異議を述べることができず(会社法810条1項2号)、分割無効の訴えも提起することも出来ないのだから、分割無効の訴えに制限があることとは関係ない。
※ 判例
会社法に基づく組織法上の法律行為であるからといって、直ちに民法の規定が制限又は排除されるのではない。制限又は排除されるのは、その趣旨の会社法の特則が存する場合であるとし、「会社法上、株式会社の新設分割について民法424条の適用を否定する明文の特則が存しない上、両制度はそれぞれ要件及び効果も異なる別個の制度であって」、新設分割について、「詐害行為取消権の対象とする必要性が高く」、「新設分割の詐害行為の効果が相対効を有するにとどまり、組織法上の新設分割の効力自体を対世効をもって取り消すものでないことからすると、会社法上、新設分割無効の訴えの制度があるからといって、株式会社の新設分割について詐害行為取消権の規定が妨げられる理由にはならない」
として、被告の主張を採用しませんでした。
また、価格賠償の効力しかないのだから新設分割の効力自体を否定することにはならないも言っています。


なお、判例は、
債務超過にある株式会社(新設分割会社)が、新設分割によって不利益を受ける債権者を全く無視して、一方的に、新設分割によって任意に選択した優良資産や一部債務を新設分割設立会社に承継させ、新設分割会社はその対価の交付を受けるものの、その対価等を考慮したとしても、新設分割によって承継されない新設分割会社の債務の債権者(以下「新設分割会社の残存債権者」という。)が害されるという事案も少なからず存することは当裁判所に顕著である。
とも述べています。こういう悪質事例に対処する実務的要請もあるのでしょう。
また、取り残された債権者が新設分割無効の訴えを提起できるかについては、消極な考えも有力であり、詐害行為取消権の行使を認める必要性は高いとも述べています。
この点は、会社法が悪質事例に対処しきれていないと言う点で、なにがしかの不備があると言わざるを得ません。残存債権者は、手続的にも何も保護されていません。


さて、会社法が残存債権者のことを考えてくれていない原因ですが、被告が「本件会社分割によって、承継させた権利義務の対価として、」新設分割設立会社の「発行する株式全部(400株)の交付を受けており、経済的等価交換の原理によりその財産状況には全く変動がな」いということで、新設分割会社(元からあった方の会社)の残存債権者は、何も不利を被っていないじゃないかという点にあります。


しかし、こんな上場もされていない会社の株式をもっていたところで、何の価値がありましょうや。


この点も、判例は、新設分割会社がその対価として交付を受けた新設分割設立会社の設立時発行株式は、新設分割会社の債権者にとって、「保全、財産評価及び換価などに著しい困難を伴うものであって、その一般財産の共同担保としての価値が毀損され、債権者が自己の有する債権について弁済を受けることがより困難になったといえるから、本件会社分割は同被告の債権者である原告を詐害するものと認めることができる。」


現実的にはまさにそうで、詐害行為取消権が認められなければ、残存債権者は、事実上、債権が回収できなくなっていくのを、債務者が新しく作った会社がのんのんと営業していくのを見ながら手をこまねいていくしかなくなってしまいます。


以上のことから、この判例は基本的に妥当なものであると考えますが、詐害行為取消権しか使えないというのは、やはり違和感があります。また、会社分割の組織法上の効力と全く抵触しないのかと言われるとやや疑問もあります。
今後、債務逃れの手法として利用されていくおそれもあり、本来的には、何らかの立法手当、残存債権者を分割手続に関与させるなどの法策を講じるべきではないでしょうか。


この判例があのころあったらな。

平成22年10月08日遺産確認請求事件

最二判平成22年10月08日


本件は、相続人の子供達の間での争いであり、ある定額貯金が被相続人である親の遺産であるかが争われています。そのような状況の中、子の一部が、子の一部に対し、定額貯金が被相続人である親の遺産であることの確認を求めた事案です。


今回争点となっているのは、原告(被上告人)に確認の利益があるかであり、上告人は、
定額郵便貯金債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となるのだから,遺産分割の対象とならない。したがって、定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えについては,その確認の利益は認められないと主張しました。


最高裁は、郵便貯金法は定額郵便貯金債権の分割を許容するものではなく,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない。
として、
定額郵便貯金債権の最終的な帰属は,遺産分割の手続において決せられるべきことになるのであるから,遺産分割の前提問題として,民事訴訟の手続において,同債権が遺産に属するか否かを決する必要性も認められる。
として、
共同相続人間において,定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えについては,その帰属に争いがある限り,確認の利益があるとして、確認の利益を認めました。


さて、債権が複数の相続人に相続されて、複数の者に帰属した場合、準共有という状態になり(民法264条)、債権が共有的に帰属する場合は、原則として分割債権となります(民法427条)。
そうすると、上告人の言うように相続の際に各共同相続人に分割されて、それぞれ分割された分を単独所有することになるので,遺産分割の対象とならなそうですが、


これに対して、分割されない理由としては、
郵便貯金法の定額郵便貯金に対する制限(7条1項3号、同条2項,郵便貯金規則83条の11)が定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨であるとして、定額郵便貯金債権が相続により分割されると解すると,債権額の計算が必要となるので)、定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反する。
また、相続により分割されるとしても,定額郵便貯金には、一定の据置期間の間分割払い戻しをしないという条件がついていることから、共同相続人は共同して全額の払戻しを求めるしかなく、単独で払い戻しを求められないのであるから分割されるとする意味もない
としています。
利子を含めて誰にいくら分割されて帰属するのかなどをいちいち計算していくと法の予定する大量の事務を迅速かつ画一的に処理しようという趣旨に反しますし、単独で行使できないという条件もついているので分割されるという意味がないということです。


古田佑紀裁判官の補足意見では、
定額郵便貯金は,分割払戻しをしないことが法律上条件とされている貯金で,全体として1個のものとして扱われることとされている債権であるとしています。
そして、この性質は、相続によって失われるものではないとしています。


千葉勝美裁判官の補足意見は、
「定額郵便貯金債権は,法令上,預入の日から起算して10年が経過するまでは分割払戻しができないという条件が付された結果,分割債権としての基本的な属性を欠くに至ったというべきである。」
「定額郵便貯金債権は,分割債権として扱うことはできず,民法427条を適用する余地はない。そうすると,預金者が死亡した場合,共同相続人は定額郵便貯金債権を準共有する(それぞれ相続分に応じた持分を有する)ということになり,同債権は,共同相続人の全員の合意がなくとも,未だ分割されていないものとして遺産分割の対象となると考えるべきである。」
としています。


事案が違うとされた最判昭29.4.8最高裁判所民事判例集8巻4号819頁に言う「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」から、本能的に分割債権だと思ってしまいがちです。
定額郵便貯金にこのような話があることは知りませんでした。
債権は、当然に分割されるという感覚だったので、注意しないといけませんね。
貯金も預金も相続人が揉めていると面倒なんですよね。

契約社員に関するポイント


●有期労働契約とは
期間の定めのある労働契約
労働関係の始まりと終わりの時期が定められている労働契約


● 契約期間の上限
原則3年まで。更新も同じです。


☆注意点
期間を何回も更新する場合、更新が続くことへの労働者の期待、更新が暗黙の了解となっていると認定される場合、期間の定めのない労働者と変わらないという判断から、更新拒絶に解雇と同様の厳格な要件が要求される場合があります(最高裁昭和49年7月22日、昭和61年12月4日判決)。


〈判断要素〉
1 業務の客観的内容
従事する仕事の種類、内容、勤務の形態
例、仕事の中身が正社員とほとんど変わらないか
2 契約上の地位の性格
地位の基幹性、臨時性、労働条件が正社員と同一性があるか
例、非常勤講師(神戸弘陵学園事件最判平2.6.5労判564号7頁)
3 当事者の主観的態様
継続雇用を期待させる当事者の言動、認識の有無、程度等
例、会社が労働者に長期雇用を期待させる言動をした
4 更新の手続、実態
契約更新の状況、契約更新時における手続の厳格性の程度
例、期間満了のたびに新契約手続締結の手続を直ちにとっていない。
5 他の労働者の更新状況
同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無
例、期間満了で雇止めされた例がほとんどない
6 その他
有期労働契約を締結した経緯、勤続年数、年齢等の上限の設定等


● 更新の有無の明示等
労働基準法14条2項、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示第357号))
更新の有無、更新するかしないかの判断基準を契約締結や契約更新時に書面で明示することとされています。


※更新の有無の明示の例
「自動的に更新する」
「更新する場合があり得る」
「契約の更新はしません」


※更新するかしないかの判断基準の例
「契約期間満了後の業務量により判断する」
「勤務成績・態度により判断する」
「労働者の能力により判断する」
「会社の経営状況により判断する」
「従事している業務の進捗状況により判断する」


※雇止めをする際の予告
あらかじめ契約を更新しないことを明示している場合を除き、契約期間満了日の30日前までに、更新しないことを予告する。
予告後、労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なく証明書を交付する。
予告につきましては、対象者を雇入れの日から起算して1年を超えて継続雇用されている者、有期労働契約が3回以上更新されている者に限るとはされていますが、トラブル防止の観点からは、なるべく行うことが望ましいと考えられています。


※雇止めの理由の明示例
前回契約更新時に、本契約を更新しないことが合意されていた。
契約締結頭書から、更新回数に上限を設けていた
担当業務が終了ないし中止した
事業縮小のため
業務遂行能力が十分でないと認められるため
職務命令に対する違反行為を行ったため
無断欠勤など勤務不良のため
など


※契約期間についての配慮
 使用者は、契約を1回以上更新し、かつ、1年を超えて継続して雇用している有期契約労働者との契約を更新しようとする場合は、契約の実態及びその労働者の希望に応じて、契約期間を出来る限り長くするよう努めなければならない。


● 就業規則について
 有期労働契約者に対する就業規則が存在しない場合、通常の就業規則が適用されます。
 したがって、通常の就業規則を適用しない場合には、適用される就業規則を明示すべきです。


※注意点
給料、労働時間など正社員と異なる扱いをする場合には、就業規則にそのことを明示する必要があります(そうでない場合、通常の就業規則の退職金規定が適用されてしまうおそれもあります。)。できれば「契約社員就業規則」のようなものを作成することが望まれます。
有期労働契約者がパートタイマーの条件を満たす場合(1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者)には、パートタイマー就業規則が適用されます。
パートタイマーにあたらない場合でも、パートタイマーと労働条件が変わらない場合には、パートタイマー就業規則と一本化する方法も考えられます。別個に作成する場合にもパートタイマー就業規則を参考に作成されることが多いようです。
 なお、労働基準法上、就業規則に有期労働契約締結時の明示事項について明記しておらず、更新の有無と判断基準を就業規則に記載することは望ましいとはされていますが、必ずしも必要はありません。
 有期にする理由がさまざまであることから、一律に就業規則に記載することには困難な事情があると思われます。


● 有期労働者からの退職
いつでも可
ただし、予告期間が必要と解されています(民法628条準用)


● 期間満了による契約の終了
解雇でないので労働基準法20条の適用対象とはなりません。
しかし、期間中の解雇については解雇予告が必要です。
反復更新されて、継続雇用の期待が生じている場合にも、解雇予告制度が必要です。

仙台地方裁判所平成22年09月09日国家賠償請求事件


本件は,被告の倉庫が冷凍倉庫なのに一般倉庫と扱われて固定資産税や都市計画税を余分に徴収されたので、国家賠償請求をした事案です。


この事案、平成22年6月3日の最高裁判決が思い出されますね。
この判決が出たとき原告はガッツポーズが出たんじゃないでしょうか。


この事案の争点は、
1 地方税法の定める不服申立手続(法432条1項本文,法434条1項,2項,法702条の8第2項)によることなく,国家賠償請求を行うことが認められるか
2 被告に国賠法1条1項の違法性及び過失が認められるか
です。


1については、最高裁判決で決着がついてしまいました。
本判決も最高裁判決の流れの通り説示して、国賠と取消訴訟は要件効果が違うから、取消訴訟の排他的管轄とか公定力とかには抵触しない。だから、国賠でいきなり行ってもいいんだとしました。

公定力という言葉を裁判所はいつまで使うんでしょうか。もはや裁判所だけでしか使わない業界用語になりつつあります。


憲法17条及び国家賠償法1条1項において,当該行政処分の取消し又は無効確認の判決を得ることは要件とされていないところ,当該処分について公定力の存在を理由に国家賠償請求を否定することは,明文の根拠なく,上記憲法及び国家賠償法によって保障された国民の憲法上の権利を失わせることにもなりかねない。」


この一文は良いですね。行政法全域にこの精神を広めて欲しいものです。


2については、職務行為基準説により違法性を肯定し、過失も肯定しています。
職務行為基準説を採ると違法性一元論的発想になるので、まあ、こうなるでしょう。


「前記(1)で説示した解釈及びこれを踏まえた前記(3)における検討によって,被告担当職員に過失が認められることは明らかである。」
というように過失で書くことがなくなってしまいます。


ところで、職務行為基準説では、「当該課税に関与した担当職員において職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったと認め得るような事情がある場合に限り,違法の評価を受ける」


とされるのですが、この説では、内部の通達などに従って長年やっていた場合に、違法性がないとされる可能性が高いんです。


「取扱要領においては,昭和63年度の固定資産税の課税の以前から,記載された文言に若干の違いはあるものの,冷凍倉庫という文言については何ら修飾語句が付されないことを前提とした解釈,運用を行う方針で一貫していたといえるから,本件係争処分当時,被告担当職員においては,取扱要領によっても,文理解釈に従った冷凍倉庫と異ならない解釈及び運用を行うことが職務上要請されており,また,そのような運用を行うことは容易であったといえる。」


では、取扱要領で長年本件事案の運用が要請されていたらどうなるのでしょうか?


通達なんて内部で勝手に作ったもので、外部から見れば自分たちで作った基準に自分たちが従っていたから違法性も過失がないなどと言われたら納得できるのでしょうか。


通達の場合は、通達を作った国に国家賠償をするの?
これが取扱条例規則だったら?条例制定行為の国家賠償は、もっと難しいはずです。


職務行為基準説は、裁判・立法・公訴の提起・逮捕の違法性等,結果的に誤っていたとしても手続的に誤りがない場合に国家賠償責任を否定する論理として登場してきたものです。
しかし、逮捕は逮捕時に逮捕要件が揃っていて適法な手続に拠って行われたならば無罪判決によって遡って違法となるわけではなく、違法性を取消訴訟における違法と同視するいわゆる公権力発動要件欠如説によっても違法ではないとすることは十分可能でした。しかし、当時、結果違法説との対立軸で捉えていたため、職務行為基準説に拠ってしまったわけですが、やはり疑問です。


解決には、違法・過失を担当職員レベルで捉えるのではなく、客観的に違法な運用をしてしまった当該行政組織全体で過失を考えるなどの工夫が必要ですが、そうでない場合、違法無過失の場面において、救済されない国家補償の谷間の問題が残ってしまいます。


損失補償に準じて考える方法もありますが、やはり何らかの立法的手当は必要なのではないかと思いますね。

平成22年09月13日損害賠償請求事件

最一判平成22年09月13日


事案
本件は、交通事故によって傷害を受け、その後に後遺障害が残ったXが、加害車両の運転者で保有者であるYに対し、民法709条又は自動車損害賠償保障法3条に基づき、損害賠償を求めた事案。


争点
労災保険法に基づく各種保険給付、国民年金法に基づく障害基礎年金及び厚生年金保険法に基づく障害厚生年金との間で行う損益相殺的な調整、これらが損害金の元本及びこれに対する遅延損害金の全部を消滅させるのに足りないときは、これらをまず各てん補の日までに生じている遅延損害金に充当し、次いで元本に充当すべきか(X)
上記の各給付は損害金の元本との間で損益相殺的な調整をすべきであり、これによって消滅した損害金の元本に対する遅延損害金は発生しないと解すべきか(Y)


原審
(1) 本件各保険給付は、支払原因が生ずる都度、治療費を病院に支払い、休業期間に対応する給付金をXに支払うなどしてされたものであり、上記各支払により治療費等の療養に要する費用又は休業損害金の元本がてん補されたことは明らかであって、遅滞による損害が実質的には生じていなかったことからすると、上記てん補に係る損害に対する本件事故の発生の日から各てん補の日までの遅延損害金が生ずると解することは、損害の公平な分担という観点からして相当でない。
(2) 本件各年金給付は、いずれもXの後遺障害による逸失利益をてん補するものであり、既に支給を受けた年金等及び口頭弁論終結日までに支給を受けることが確定した年金等の額の限度で、上記逸失利益との間で損益相殺的な調整を行うことができるところ、本件各年金給付が支給される時点における逸失利益の元本及びこれに対する遅延損害金の全部を消滅させるのに足りないときは、これをまず各てん補の日(ただし、支給を受けることが確定した年金等については口頭弁論終結日)までに生じている遅延損害金に、次いで元本に充当すべきである。


最高裁
原審の(1)の判断は是認
(2)の判断は是認できない。
被害者が不法行為によって損害を被ると同時に、同一の原因によって利益を受ける場合には、損害と利益との間に同質性がある限り、公平の見地から、その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要がある最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁)。そして、被害者が、不法行為によって傷害を受け、その後に後遺障害が残った場合において、労災保険法に基づく各種保険給付や公的年金制度に基づく各種年金給付を受けたときは、これらの社会保険給付は、それぞれの制度の趣旨目的に従い、特定の損害について必要額をてん補するために支給されるものであるから、同給付については、てん補の対象となる特定の損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。」


「そして、不法行為による損害賠償債務は、不法行為の時に発生し、かつ、何らの催告を要することなく遅滞に陥るものと解されるが」、「被害者が不法行為によって傷害を受け、その後に後遺障害が残った場合においては、不法行為の時から相当な時間が経過した後に現実化する損害につき、不確実、不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に、不法行為の時におけるその額を算定せざるを得ない。その額の算定に当たっては、一般に、不法行為の時から損害が現実化する時までの間の中間利息が必ずしも厳密に控除されるわけではないこと、上記の場合に支給される労災保険法に基づく各種保険給付や公的年金制度に基づく各種年金給付は、それぞれの制度の趣旨目的に従い、特定の損害について必要額をてん補するために、てん補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給されることが予定されていることなどを考慮すると、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、これらが支給され、又は支給されることが確定することにより、そのてん補の対象となる損害は不法行為の時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが、公平の見地からみて相当というべきである。」
「前記事実関係によれば、本件各保険給付及び本件各年金給付は、その制度の予定するところに従って、てん補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給され、又は支給されることが確定したものということができるから、そのてん補の対象となる損害は本件事故の日にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をするのが相当である。」


本判決は、最高裁平成16年(受)第525号同年12月20日第二小法廷判決・裁判集民事215号987頁は,事案を異にし,本件に適切でないとしています。
この判決は、自賠責保険金、遺族厚生年金、労災補償年金の事案で、
 「本件自賠責保険金等によっててん補される損害についても、本件事故時から本件自賠責保険金等の支払日までの間の遅延損害金が既に発生していたのであるから、本件自賠責保険金等が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは、遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかである(民法四九一条一項参照)。」
と判示しています。

制度の趣旨目的が違うと言うことなのだとは思いますが、率直のところ、まだよくわかりません。
判例解説が待たれるところです。

平成16年の方は、既に発生した賠償金を填補するというものだというところなのか?自賠責の場合、損害費目の制限がないとかが影響しているのだろうか。遺族補償年金や遺族厚生年金は、控除できる費目が消極損害に限られるはずだから、本件とどう異なるのか。

もう少し考えてみる必要がありそうです。